日本における象牙の工芸的工作は飛鳥時代(7世紀)に中国より他の文物と共に渡来したと考えられます。象牙彫刻は正倉院御物の中に種々ありますが、1200年以前から存在しその後の時代においても物差し、櫛、碁石、刀鞘、撥(バチ)などいずれも貴重品として高家、雅人に愛され、400年の歴史をもつ根付は多くの庶民にも使用されました。
象牙の置物は明治10年の博覧会で「精密巧妙且ツ極美ノ観ヲ供セシハ象牙細工ヲ似テ最首トス」と表され14年の博覧会の会場を「真っ白に埋める」ほどの盛況を呈しました。
本来、硬質でかつ粘りがある象牙という素材は、普通の刀をあてて工作することが難しく、複雑な技法が要求されました。この技術的困難を解決したのが、江戸末期「左刃」の刀の発明です。現在、東京都台東区谷中の延命院にある「左刀一派記念碑」には、伊勢生まれで大阪の住人「徳蔵」が、その刀法を江戸の「山田潮月」に伝えたとあります。いまその詳細は不明ですが、この画期的な技術革新をきっかけとして多くの作家がこの技法を駆使し、明治時代の絢爛たる象牙彫刻界を築き上げました。
日本象牙彫刻会は、この明治期の彫刻界に生まれた諸会派の流れを汲む作家が集結した団体です。現在ではワシントン条約による象と、象牙の保護の重要性を充分認識しつつ作家活動を続けてきた結果、平成11年、日本に限り試験的に一部象牙の輸入が
認められました。
今後も、日本象牙彫刻会は、象と象牙の保護を念頭におき、伝統の保存と継承を実践してゆきます。
昭和53年の第一回展にはじまる本展も今回で第34回展となります。象牙彫刻の美と精緻な伝統技法の世界をご堪能ください。